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備忘録:「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」について

 ※今回の内容は「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」のネタバレがあります。

 

 2017年の「最後のジェダイ」以降、僕のスター・ウォーズに対する気持ちが作中で肉体が消失したルーク・スカイウォーカーの様に消えて、早2年。その約半年後に公開された「ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー」もスタートレックのTシャツを着て観に行くほど、スター・ウォーズ自体への興味が薄れていった。

starwars.disney.co.jp

 それは2019年4月に今作「スカイウォーカーの夜明け」のティーザー映像が公開された後も同じだった。しかし、僕自身スター・ウォーズとはそれなりに長い付き合いだ。オリジナルトリロジーではなく、プリクエルトリロジー直撃世代ではあるが、それでも2019年から数えると、20年近い。だから、薄れていた興味も公開が近づくほど徐々に盛り上がり、12月20日が近づくにつれそわそわして、当日になるとすっかり、フォースの冥界から帰還した僕はイウォークのTシャツを着込んで劇場へ足を運んだ。そして、観終わる頃には人に説教するヨーダの様に苦虫を噛み潰した顔になってしまった。

 スカイウォーカーサーガ完結作と銘打ってディズニーが打ち出してきた今作は、まるでチェックリスト片手に映画を観ている気にさせられた。2015年の「フォースの覚醒」では観ている観客に多くの「謎」というものを植え付け続けた。ルークのライトセーバー回収の件とか、カイロ・レンの目的やレイの出自など、もともと続編ありきで作られた作品であり、観ている私もその件について議論はしても、文句は言わなかった。それはきっと続編で答えを出してくれるだろうから。

 だが、それから2年後の「最後のジェダイ」を観て、私は度肝を抜かれた。「最後のジェダイ」は作品自体を見ると、常に話が展開して、観客を飽きさせない。だが、観終わって振り返ってみると、物語が全くと言っていいほど進んでいないのではないかということに気づいた。例えば、カイロ・レンガレイに「お前の両親はその辺のろくでなしだ」と言うシーンがある。それによって観客はレイの出自について謎が明かされたと思わされる。しかし、このシリーズにおいてシスは基本的に嘘つきだということ観客は知っている。オリジナルシリーズではダース・ベイダーはランド・カルリジアンとの取引を平気で破るし、プリクエルシリーズのパルパティーンなんて最初から最後まで嘘を突き通しだ。だから、カイロ・レンが一言そんなことを言ったぐらいでは、我々観ている観客は納得しないし、加えて彼女が劇中で発揮する原因不明のフォースの強さというのも理由が不明だ。ルークはアナキンの息子な故に潜在的なフォース感知能力が高かった、アナキンはファンには不評だが、「ミディクロリアン」によって生まれたという一応の理由は存在する。レイにはそれが存在しないのだ。つまり、上映時間の2時間半を通じて何も話が進んでいないということだ。フォースの概念に理由を求めるのは自分でもナンセンスだと思うが、映画には必要なのだ。

 「最後のジェダイ」が起こした話の停滞は今作「スカイウォーカーの夜明け」のオープニングロールから影響を感じられる。毎回おなじみのロールの一言目でシスの暗黒卿であるパルパティーンの復活が明らかになるのだが、彼の言及についてはそれまで全く行われていなかった。映画2本分の時間があったのにも関わらずだ。

 仮にパルパティーンヴィランであることが最初から決まっていたのなら、普通は2作目に出すだろう。その方がクリフハンガー的にも効果的だし、3作目への期待も盛り上がる。それなのに、映画2作を通じて彼に対する言及は一切なく、この最終作の開始数分で登場させるのは、制作側も「最後のジェダイ」に関して、意図的でなかったところが大きかったのではないかと勘ぐってしまう。

 もちろん、それは2016年にこの世を去ってしまったレイア姫役のキャリー・フィッシャーの不在もあり、元の脚本を大幅に変えないといけなかったこともあるだろう。最近、リークされ、本人も本物と認めたコリン・トレボロウ版エピソード9のコンセプトアートとシナリオからも読み取れる。

 しかし、それにしても今回のディズニーが作った3部作はキャラクターの統一性があまり上手くいっていない様にも感じられる。例えば、オスカー・アイザック演じるポー・ダメロンを見ればそれが分かる。彼は「フォースの覚醒」では好青年のエースパイロットというポジションのキャラクターだった。それが「最後のジェダイ」では、未熟で成長する必要があることが示される。この流れでいくと、続編である「スカイウォーカーの夜明け」で成長した彼の姿がフィーチャーされるのが自然だろう。だが、「スカイウォーカーの夜明け」ではその辺の描写が薄く、「最後のジェダイ」に引き続き、無謀な計画を思いつくなど、成長があまり見られない。さらに、急にハン・ソロに近いキャラクターに寄せられている。

 僕は「フォースの覚醒」を観た時、ポー・ダメロンのキャラクターがかなり新鮮だった。スター・ウォーズに登場する多くの人物は基本的に皮肉屋だ。ルークはミレニアムファルコンを始めて見た時、「ポンコツ」呼ばわりするし、レイア姫は初対面のチューバッカを「歩くカーペット」扱いする。そういった失礼なキャラクターが多いこのシリーズの中で、ポー・ダメロンは名前のないストームトルーパーの一兵士であるFN-2187に『フィン』という名前を与え、活躍する彼を称え、革ジャンまであげる超ナイスガイだ。そんな彼が物語の進行とともに旧キャラの性格に寄せられていくのは個人的に残念だった。

 「最後のジェダイ」で一番嫌いだったのは、ルーク・スカイウォーカーという人間の扱いについてだ。僕は「最後のジェダイ」のルークについては一から十まで納得出来ていない。この作品で彼は甥の寝込みを襲って殺そうとしていたということが明かされるのだが、彼は「ジェダイの帰還(ジェダイの復讐)」で自分の身を犠牲にしてまで、父親を救おうとした男だ。そんな彼が数分間の回想で甥を殺そうとしていたことを明かされてもこちらとしては受け入れられる気がしない。さらに、終盤彼が自分の妹を助けに駆けつけたと思いきや、実はその姿自体がフォースで作った分身だった、というのもルーク像を否定したい自分の中の葛藤を加速させている。だが、それはすでに過去のことだから仕方ないし、「最後のジェダイ」の監督・脚本のライアン・ジョンソンにも彼なりのルーク像があったのだろうと思いたかった。

theriver.jp

 しかし、今作「スカイウォーカーの夜明け」で「最後のジェダイ」の時に海に沈んでいた旧型のXウィングが使用可能だった事実が明かされると、僕は古傷を抉られた。それが使えるということは、「最後のジェダイ」の時に直接助けに来られたし、わざわざフォース分身で力を使い果たして命を落とす必要もなかった。もしかしたら、全速力でハイパースペースに入って駆けつけたとしても、間に合わなかった可能性もあるが、劇中においてのレイの移動時間から考えるに、その可能性低いと思う。キャラクターがどう動くか、何を考えての行動なのか、その行動原理についての整合性が観ている側には大事だし、このシリーズはそれが足りなかったのは明らかだ。

 映画自体もどこかテンポが早く、それなりに展開が早いが、いかんせん必要じゃないシーンが多い。例えば、今回チューバッカが一度死亡したかと思えば、その5分後には生きていることが明かされたり、シスの言語を読むためにC-3POのメモリを消して、今までの彼の人格が消えたかと思えば、あっさりバックアップによって元に戻ったりと、一々こちらを落ち込ませるのにそれに対するリカバーが早過ぎるのだ。だから、見ている間はすごくハラハラする展開が続くと思いきや、終わってみると『あそこ必要なかったんじゃ』というシーンが多い。

 要は事務的なのだ。これが最初の方でも言った『チェックリスト片手に映画を見ているような』ということなのだが、観客がこうやっておけば、驚くし、泣くんじゃないか、と作っている方がリストに書き出したものを見せられている気がしてならない。それが乱発しているので、どこか雑に感じる。例えば、最後に駆けつける援軍には「アベンジャーズ/エンドゲーム」の様な消された人達が帰ってきたワクワク感はない。だって知らない人だし(ウェッジとか以外)。それでも、ハン・ソロのシーンでは少しウルっときたのも事実だ。そこは否定しない。カイロ・レンに関する描写はこのちぐはぐなシリーズの中でも良い部分の一つだ。

 物語のラストでレイが自分のこと『レイ・スカイウォーカー』と名乗るのもイマイチ納得出来ない。彼女がスカイウォーカーを名乗ることで彼女をシスの暗黒卿から逃がした両親に対する尊敬や愛情などが消えている様に思う。名もなき両親の姓を受け継ぐより、神話の一部のスカイウォーカーであることを選ぶというのは、「最後のジェダイ」でも示していた『何者でもない者達の物語』というテーマからも相反するものだ。つまり、ここでも3部作における統一性のなさを際立たせる。

  モノ創りというのは上手くいかないことがほとんどだ。僕にも経験がある。最初に思いついたものが完成した時には全く想定していなかった着地を迎えている。結局のところ、作品の「良し悪し」などというものは第3者の目に触れて、始めて分かるのだ。この先の「スター・ウォーズ」の映画に関しては一時休止との報道がされたが、それが良かったかどうかは、また新たな物語が始まることで明らかになるだろう。それまで僕は再びフォースの冥界に戻るとしよう。ルーク、アナキン、レイに続く『選ばれし者(Chosen One)』が現れるまで。