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小説感想『地上最後の刑事』、『カウントダウン・シティ』、『世界の終わりの七日間』三部作

 「SF+警察」ものというのは1ジャンルとして大好物なものだ。『ロボコップ』、『ブレードランナー』、『デモリションマン』、『マイノリティ・リポート』だったりと。そういうジャンルなだけでついついチェックしてしまう。そして、今回面白い三部作の小説を見つけてしまったので感想を残しておきたい。

 ベン・H・ウィンタース作の『地上最後の刑事』からなる三部作だ。

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 物語は至ってシンプルで、半年後に地球に小惑星が落ちてきて人類が滅亡するという世界で主人公の新人刑事がマクドナルドで首吊り自殺を図った男に他殺の疑いをかけて殺人事件として捜査していくという話だ。

 地球に小惑星が落ちる、という話はそれこそ手垢がつくほど見ている気がする。それこそ最近も『グリーンランド』があった。さらに、ポスト・アポカリプスものを含めれば数え切れないほどある。だからこそと言っていいのか、逆にあんまり印象に残るものも少ない。

 ただ、この『地上最後の刑事』が面白いのは「小惑星が地球に落ちる」といった脅威が目に見えないことだ。脅威自体は皆、ニュース映像やCG再現したネット動画でわかってはいるのだが、落ちてくるのは半年後で空を見上げても当然目には見えない。しかし、パニックや生きることに失望した人々は仕事を辞めて、家族を捨てて家を出たりする。自分がやり残したリストを埋めるために。そして、仕事をする人がいなくなると、インフラが止まり、ネットが使えなくなり、電気が消えて、最後には暴動が起きる。主人公をはじめとして、パニックに陥らず日常を過ごそうとする人も存在する。スーツを着て仕事に行ったり、食堂をいつも通り営業したりと。だが、波のような倫理の崩壊と半年後には絶対に死ぬという未来への希望のなさでそんな日常もだんだんと消えていく。自分が冷静を保とうとしても、周りがパニックになるせいで胸がソワソワするというのはこの1年ちょっとのあいだですごくリアルに感じてしまうようになった。

 主人公のヘンリー・パレスという刑事も非常に魅力的だ。彼は新人で(皆が仕事を辞め、人員不足のせいで昇格した)経験も浅いのだが、社会が崩壊しようとしても法と秩序を重んじ任務を果たそうとする。同僚も未来はなく事件を解決することに意味はないと考えているが、それでも彼はそれが人を殺していい理由になるはずがないと自身の正義もはっきりしている。

 SFというよりは小説全体としてはノワール、ハードボイルドものだ。SF、ポスト・アポカリプス要素は二作目の『カウントダウン・シティ』以降が強くなる。『マッドマックス2』みたいに犬が相棒になるし(かわいい小型犬だが)。

 この小説は3作通して全体的に展開が地味だ。政府の地下シェルターが出てくるわけでも、隕石落下を食い止めるための宇宙ロケットが登場するわけでもない。話も片田舎での殺人事件の捜査だったり、陰謀論を信じ込んでレジスタンス行為に走る妹の目を覚まさせようとしたり、ネットフリックスで実写化でもしたりしてもいまいち盛り上がりそうにない場面もあるが、常に展開が気になりずっと読み進めてしまった。

 個人的には「半年後に世界が終わる」という設定がすごく好きで、今日明日の話じゃないから、テンポのいいディザスター映画のような「次の日スーパーに行ったら暴徒が占領してる」とかではなく、日常は続いて馴染みの店に通って世間話をする。でも、ゆるやかに終末が近づいてそんな生活も崩壊していく、といった感じは次々とジェットコースターのような展開を用意しておかなければいけない二時間の映画だったら表現できない気もする。「心温まる」とか「後味がいい」みたいな、そういった話ではないが、どこか心に残る小説だった。