メイヘム101

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映画「オアシス:スーパーソニック」の感想

 新型コロナウィルスの拡大の影響で休みの日は基本的に家にいる。映画館にも ひと月ほど行っていない。とは言うものの、特段アウトドアな趣味を持っている訳でもないし、外に飲みに行くという習慣もないため、映画館に行くという以外は日常的には家で映画を見たりゲームをしたり、本を読んだりととあまり変わらない。しかし、給与に影響のない政治家とは違い日銭を稼ぐために外に出る必要はあるのだが。

 先日Amazonプライム・ビデオで映画を見た。「オアシス:スーパーソニック」を。

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 90年代におけるブリットポップ・ムーブメントの代表格Oasisが観客ゼロの無名状態からデビューして僅か3年で25万人を動員したネブワース・ライブに至るまでの経緯を描いたドキュメンタリー映画だ。

 Oasisは個人的に一番好きなバンドだ。ギターを挫折せずに続けられたきっかけの音楽の一つと言っていい。高校の時にDon't Look Back In AngerのMVを見て、貯めたバイト代でEpiphone のセミアコ(ノエルのシグネチャーモデルで水色のモデル)を買って、弾けるようになるまで何度も練習した。ノエル・ギャラガーTOP OF THE POPSに出演したザ・スミスの赤いセミアコを抱えてブライアン・ジョーンズみたいな髪型のジョニー・マーに憧れたと言ったことがあるが、僕にとってはOasisがまさにそれだった。

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 だけど、僕は90年代にOasisの音楽を体験したリアルタイム世代じゃない。初めて聞いたのは、最後のアルバムのDig Out Your Soulが出る前だったが、ネットで調べて聞いた世代だ。そして、この映画は90年代的な雰囲気も含めて、当時の音楽バブルを知るにはとても面白い映画だった。

 Oasisの口の悪さや素行不良さは以前からインタビューなどでも語られていたが、改めて映画で見せられると 気が狂っているとしか思えない。ツアーの移動中に喧嘩騒ぎを起こして強制送還とか、一晩中ドラッグをやった後の演奏でセットリストを間違えて音がバラバラだとか、今のバンドでそんなことをやらかす人間がいたら炎上どころでは済まないだろう。リアムは『それこそがロックンロールだ』と語っていたが、さすがに無理がある気がする。

 映像的にはファンにはお馴染みのライブ映像も使われているが、珍しい映像や写真もあった。ティーンエイジャー時代のリアムやローディの仕事をしていた頃のノエルの写真、94年に日本で初公演した時の映像などは初めて見た(今考えると信じられないくらい小さい箱でやっているのも驚く)。他にもTalk Tonightを書き上げた背景やノエルが歌っている時のリアムの心境など面白いエピソードも多い。

 劇中でノエルは二度とこんな時代は来ないだろうと言っている。 確かに今の時代は90年代とは違い、アイコン化されたスターが存在しない。誰もが知るトム・クルーズみたいな存在は出てきていない。近年ではロバート・ダウニー・Jr.が近い存在だと思うが、人物というよりはアイアンマンという役柄に結びついた印象が強い。

 ただ、それはネットやSNSの発達によって個人主義が進んだ結果に過ぎない。テレビやラジオから流れる流行りの曲に耳を傾ける必要がなくなった。誰もが自由に表現できるようになった。映像でも音楽でも絵でも文字でも何でもだ。その代わりと言ってか共通言語的なヒット曲みたいなものはなくなった。劇中のネブワース公演の中でノエルが観客に向かって「これは歴史だ」と言う場面があるが、確かに260万人がバンドのライブに応募する時代なんてもう二度とないのかもしれない。